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河馬はやっぱりいない

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2005年 09月 27日

ピュアドラばかりなぜ売れる?

 いきなりマニアックなエントリ。ピュアドラってのはバボラというメーカー(もとはストリングメーカーだった)のピュアドライブというラケットのこと。ブルーにバボラステンシルのマーク(白の2本線)が入ったやつって言えばテニスしてるひとは大体「ああ、あれか」と思うはず。1999年10月の発売以来デザインのみのマイナーチェンジを1回行っただけで基本設計は変わらないのにずっと売れつづけている。驚異的なベスト&ロングセラーだ。プロ(ロディックやクライシュテルスやモヤ)が使用しているモデルなのでテレビでの露出度も高いが、それだけが売れてる理由ではもちろんない。

「今までどのメーカーも手がけてこなかったニッチ市場を突いた商品なんだ」先日あるテニスショップのオヤジが言っていたが、これが多分正解だろう。

 どういう市場なのか。このラケットは「トッププロが使用するモデルでありながら、初中級クラスのひとにもそれなりに使い易い」というモデルなのである。テレビで見たあの人が使っていた、あるいは同じサークルのうまい人が使っていた、というラケットで実際に自分で打ってみてその重さ、扱いずらさに「やっぱあの人だからこのラケットを使えるんだ、自分にはとてもムリ」なんて思いをした人は多いはず。で、悲しいことにかっこいいんだ、そういう上級者向けラケットって。ヘッドのプレステージ、ウィルソンのプロスタッフツアー、ヨネックスのRDX500、ダンロップの200Getc…。

 ところがピュアドラは違う。サークルやクラブの人がもってるので「ちょっと使わせて」なんて試打してみたら、いわゆる上級者オンリーのラケットのような敷居の高さはなく、思いのほか使い易くてびっくり、ちょうど今まで使ってた初心者向けラケットを替えよう思ってたんだ、よしこれにしようなんてことが多いはず。あるいは今までずっと学生時代からのラケットを使ってきたけどそろそろ買い換えたい。ただ体力的にも上級者向けは厳しいし、かといって中級向けのラケットにするには抵抗がある…なんて人にもフィットする。

 もともとのユーザー(体育会系とかクラブの上級プレーヤーとか)に加えてこんな便乗ユーザーで売上増やしたみたいなイメージか。私が所属しているサークルでもはじめにすごくうまい人が使ってたのがあっというまに広まった。その人と同じラケットを使ったからって同じプレーができるわけはないのだが、まあその辺は。

 で、実際に打ってみると私のような非力なプレーヤーにも十分な軽さだし、ホールド感も充分(振動はいささか大きい気もするが)。スピンはかけ易いし、よくボールを飛ばしてくれる。ウーファー(グロメットのとこが丸くなっててストリングが自由に動く)のおかげでスイートスポットも広い。狭いスイートスポットのラケットの芯を喰ったような爽快な打球感は望むべくもないが、試合でなんとか当てたボールがかえってくれるのはありがたい。もちろん上級者には上級者なりのメリットも。スイングスピードが速くてボールをつぶせるレベルの人なんかの話では、「他のラケットではありえないボールがいく」、なんてこともあるらしい。デザイン的にもシンプルで飽きがこないし。こりゃ売れるわ。

 しかし問題点もある。まずボールがよく飛ぶということはコントロールが難しいということだ。きちんとスピンをかけられない人には深さの調節が大変。ちゃんとスピンをかけられる人も疲れてくるとすっぽ抜けたようなアウトボールが多くなる。当然ストリングでの調節を迫られる。上級者ユーザーにおけるポリ率は相当高そうだ。ボレーの際にも面にボールが吸い付くような感触があってこれまた深さのコントロールが難しい。ピュアドラボレーなんて言葉があるくらいだ。テニスショップのインプレや掲示板なんかを見てると中途半端にうまい人には却って扱いずらいという意見が多い。

 個人的には軽く当てた時にボールがすっ飛んでいくという印象があって、入力と出力のアンバランスさにびっくりさせられるとこがどーにも慣れない。なにより一番の問題はどこにいっても自分と同じラケットを持ってる人がいっぱいいるということ。売れているということはそういうことだ。ひどいときにはダブルスのゲームでプレーヤー4人がみんなピュアドラなんて状況も何回か目にしたことがある。個人的には萎えるんじゃないかと思うのだが。とはいえ売れ行きに翳りが見えないのはみんなそこらへんは割り切ってるんだろうか。

 で、結論。テニスラケットという飽和市場に参入したバボラという後発メーカー(ストリングでは知名度あったが)がいかにしてシェアを獲得するかという大命題に対して打ち出した戦略が、「モデルイメージの割に初中級プレーヤー(実はテニスプレーヤーのなかで一番大きいセグメント)に親和性の高いラケット」という今までありそうでなかった商品を開発することであった。その戦略が見事大当たりしたと。

 ピュアドラってなんかプロジェクトXみたいだ。

by kelsokelsokelso | 2005-09-27 18:58 | テニス


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